三面記事小説
角田光代(著)
/文春文庫
作品情報
「私は殺人を依頼しました。恋人の妻を殺してほしいと頼みました…」誰もが滑り落ちるかもしれない、三面記事の向こうの世界。なぜ、姉夫婦の家は不気味な要塞のようになってしまったのか? 家出少年を軟禁する主婦の異常な執着心。「死んでしまえ」と担任の給食に薬物を混ぜる女子生徒。平穏な日常が音をたてて崩れてゆく瞬間のリアルな肌触り、追いつめられていく様子。現実の三面記事に書かれた、いわくありげな事件から著者が幻視した、6つの短篇。
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商品情報
- シリーズ
- 三面記事小説
- 著者
- 角田光代
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2010.09.10
- Reader Store発売日
- 2011.04.01
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 279ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (135件のレビュー)
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本当の事件をモチーフにした、リアルな小説
日本で起きた事件をモチーフにした短編小説です。
当時新聞やテレビで見た記憶に残っている事件も描かれていて
大変興味深かったです。
そして、一つ一つの事件の背景をうまくとり入れながら
読みごたえのある…作品になっており、引き込まれて半日で読み終えました。
特に、自分の恋人の妻を殺して欲しいと代理殺人を依頼した女性の事件は、
女性の心情の移り変わりが見事に表現されており、圧巻でした。
何故彼女があそこまで追い詰められたか…
何故恋人があそこまで変貌してしまったのか…
それは環境だけではなく、彼女の性格がそうさせてしまったのかもしれません。
角田さんの小説は冒頭の文章から読者を引き込む力を持っています。
こちらは短編小説ですが、どれをとっても重く考えさせられる内容でした。続きを読む投稿日:2014.09.15
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読後、家族と話し合った(おかしな方向に)
執着と愛の狭間で揺れ動いていたものが、執着に大きく傾いてしまった時に、こんな事件が起こるのだろう。
途中までは理解も共感もできるのに、ある一瞬で大きく傾いていって、「ああ…それやっちゃ駄目だよ…」とい…う気持ちになる。
ただ、最後の一編『光の川』。これは実際の事件としても記憶に新しい。認知症の母を一人で介護し、けれど本人は健康体だからという理由で生活保護なども受けられず、その果てに母を殺してしまったという50代の息子の話。
他の短編たちは愛が執着に変わってしまったが故の悲劇だし、明らかに犯罪だ。モラルとして許されるべきものではない。
けれど、『光の川』だけは、そう言い切れない自分がいる。
実際の事件の報道に接した時もそう思った。同じ状況だったら私もやるかもしれない。ただひとつ迷うとするなら、親を殺すのが先か、自分が死ぬのが先かというくらいか。
だとしたら、そこで親を先に殺すのは、それは愛ではないだろうか。
モラルだとかヒューマニズムだとかは置いておいて、もう絶対に駄目だと思った時に、先に相手を解放してやるのは、愛ではないだろうか。
いや、ひょっとしたらエゴイズムかもしれない。単なる自己満足でしかなくて、やっぱりそれは独善的で傲慢な殺人行為でしかないのかもしれない。
こんな状況なのだから思い詰めたとしても許されると、心のどこかで考えてしまったら、それは罪だ。
けれどそうじゃなかったら。
我が家にも年老いた母がいる。女同士というのはひどく現実的なものだから、何くれとなく話している折に、私と母がよくたどり着く結論がある。
「お金だけが幸せじゃないけれど、お金で買える幸せはある」
使い切れないほどのお金を持っていても、覆せない不幸はいくらでもあるし、貧しさだけが不幸の原因ではないことは二人とも知っている。
けれど、お金で買える幸せだって結構な割合で存在する。
もちろん、不治の病はお金があっても治らないし、死に瀕した人がお金で命を買えるわけではない。作中にあるような、進んだ認知症はいくらお金をかけたって治らない。
けれど、お金があれば充分な介護をすることができて、その介護は家族の負担にならずにお金で解決することができる。そうすれば家族にだって心のゆとりが生まれるし、介護にとられずに済んだ時間が生まれる。時間はお金で買えるのだ。
が、作中のような貧しさ(といっても、ごく普通に働いていて、ごく普通に貯蓄をしていた成年男性だ)の中では、毎日ヘルパーを頼むこともできず、介護に時間をとられて、仕事を辞めざるを得なくなる。そうして、貯蓄も精神力も摩滅していく。
「お金だけが幸せじゃない」そんなことを言えるのはお金に不自由しない人間だけだ。
お金で解決できない不幸はあるが、中流以下の人間がそれと同じ不幸に見舞われれば、その辛さは倍増するだろう。
私と母は、いつもそんな風に、身も蓋もない結論にたどり着く。
そして、この本を読んだ後、なんとなく母に電話をした。
こういう小説を読んだのだが、と話し出すと、母も読んだことがあるという。そして同じように、事件報道も記憶に新しいと。
「同じ状況だったら、私も殺すかもしれないけどいいかな」
と聞いたら、
「うん、いいよ」
と言った。
ただ、それに続けて
「殺されるほうはそれで別にいいけれど、殺した後、あなたが前科者になっちゃうのは困る」
と呟いた。
「困ると言っても、その頃にはあなたは殺されてるわけだから」
「それもそうだけど、でも刑務所に入ってしまったら、出所した後も仕事ないし、人生むだにしちゃうじゃない。だから、私が殺されるのはかまわないけど、あなたが殺すのはやめたほうがいい」
とりあえず、自分が殺されることになってさえ、子供の将来の心配をするのが親なのだなぁと妙に感慨深かったです。
だから、そうならないようにお互いに努力しようということになりました。
(後半、あまりレビューっぽくなかった)続きを読む投稿日:2015.03.29
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