論理学入門推論のセンスとテクニックのために NHKブックスセレクション
三浦俊彦(著者)
/NHK出版
この作品のレビュー
平均 4.5 (9件のレビュー)
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本書は、第?章で記号論理学の基礎を学び、その応用として第?章で、現代科学の基礎的な方法論である『人間原理』を論理学的観点から解説・検討するという構成になっている。
「論理学入門」という書名とは裏…腹に、本書の重点は第?章の『人間原理』の論理学的な解説にこそある。第?章もそのために必要な事柄を中心に構成されているので、一般的な論理学の入門書とは切り口の異なる部分が多々ある。特に、『人間原理』の依拠しているいわゆる語用論的背理法の詳細な解説は、類書にない特色として本書の価値を高めている。
しかし、斬新な切り口や類書にない事項の詳細な解説は、入門書が対象とする読者層であるはずの「論理学に触れたことのない人」にとって、必ずしも有益ではないかもしれない。全体の分量に対して詰め込まれた情報が多すぎ、初学者はそれらをうまく処理できずに挫折しかねないのだ。
本書はむしろ、論理学の基礎を学んだ者が、知識を新たな観点から整理したり、実際の問題に応用するための入門書として位置づける方が適切だと思われる。著者が前書きで述べるように、「応用論理学入門」という書名の方が実態に即しているのではないだろうか。
第?章の応用部分である第?章では、現代科学の基礎的な方法論である『人間原理』についてたいへん興味深い議論がなされている。本来の『人間原理』は、人間中心主義――観察者としての人間がいる か ら こ そ 宇宙がある――という含みを持った通俗的な理解とは異なり、「人間を他の物理現象と同列に扱う徹底的にコペルニクス的な宇宙原理の一例」だというのである。実際に提唱者の論証過程が紹介され、『人間原理』の論理構造が語用論的背理法であることが示される一方で、通俗的な理解が単純な論理的誤謬に基づいていることを指摘されれば、筆者の主張の正当性を認めないわけにはいかない。通俗的な理解が破壊される過程は、知的興奮に満ちている。
筆者は『人間原理』の他、「なぜ人を殺してはいけないのか」「人類文明の寿命はどのくらいか」「いわゆる『意識の超難問』」といった問題に論理学的観点から答えようと試みている。230頁程度の分量に詰め込むには多すぎる情報量だが、きちんと消化できれば1000円支払う価値は十分にある。一通り論理学を学んだ人や、上記の諸問題に興味がある人にはオススメ。続きを読む投稿日:2006.12.09
前半は記号論理学の基本の説明、後半は論理学の人間原理への応用である。高校生の時に一度読んだが再読。今回は後半のみ。
人間原理は元々宇宙物理学の文脈において提唱された。その一般化した主張は、簡単に述…べれば次のようなものである。つまり、「私が『私』であること(今が『今』であること、ここが『ここ』であること)は尤もらしい」つまり、「私たちは平凡だ」ということである(平凡の原理)。
この、ごく常識的な、少なくともコペルニクス以来の脱人間中心主義・近代科学的世界観の延長線上にある考え方を認めれば、論理学の推論から、例えば
・地球外知性は存在しそうにない。
・銀河クラブはありそうにない。
・地球文明の寿命は残り1000年以内の確率が95%以上。
といった、非常にショッキングな結論が従うのだ!前二つはともかくとして、文明の寿命に関する議論には、初めて読んだとき、かなり衝撃を受けたことを覚えている(もっとも、あくまで確率付きの結論であることには留意する必要がある)。また、強い人間原理から多宇宙説という考えが自然に生じるが、(他の宇宙というのは定義からして観測できないはずだが)この宇宙に掛かっている「現に人間を生み出した」という制約がどれほど厳しいものかを計算することで多宇宙説の尤もらしさが求められるという。その他にも、人間原理のよくある誤解がまとめられていて、僕自身理解が不十分だった種々の点に気付かされた。
以下、僕なりに考えたことをメモしておく(頓珍漢なことを言っていると思いますが)。
・文明の寿命に関する議論は現在地球の人口が増加中であることが前提だったが、ある瞬間だけを見れば人口が減少している瞬間がある筈で、もしその瞬間毎の情報しか与えられなければ結論は瞬間毎に違うものになるのだろうか?また、日本の人口は減少しているが、そうなると、日本の寿命が人間文明の寿命より長いという奇妙なことにならないだろうか?
・宇宙の制約から多宇宙説の尤もらしさを導く議論について、その制約の厳しさの程度というのは結局他の宇宙との比較によってしか分からないのでは無いだろうか?ある制約がとても厳しいものであるように見えても、実は隠れた因子があって、考えうる宇宙に対し必然である(若しくは、そのような宇宙が多数派である)という状況が考えられるのではないだろうか?
・永井独在論に対する筆者の批判について。筆者の批判は、一言でいえば「この「私」(自意識的存在)が〈私〉(世界が開ける原点)であることが、永井が言うように「還元できない奇跡」だと思えるのは選択効果を忘れているからで、その問いを問うているのがまさにこの「私」である以上、必然である」ということで合っているだろうか?「世界がこのままであって、にもかかわらず〈私〉が永井均以外の人間であることができたというのは永井の錯覚である。永井均以外の問わぬ者たちは「私」でありうるだけだ。永井の疑問そのものが〈私〉が誰であるかを決める選択条件なのだから。(略)字面上永井と同じ疑問に到達した者も、永井に論理的に賛成することはできないというわけだ。言語ゲームによってただ「永井の知らない別の驚き」へと誘われただけなのである。」(p.230)この点については、三浦の指摘が批判になっているのかどうかも含めて、また考える必要がありそうだ。
Ⅰ 記号論理学の基礎—ゲームの規則
1 論理学的思考へ 意味論と語用論
2 真と偽 命題の特性を探る
3 トートロジー 偽となりえない命題
4 「ならば」の論理 条件文の構造
5 「妥当な推論」とは何か 推論規則と定理
6 推論の冒険 演繹定理から仮説演繹法へ
7 地球外知性は存在するか? 背理法的推論
8 述語論理学 命題の内部構造を探る
9 多重量化と同一性 日常言語の曖昧さを解きほぐす
10 存在をめぐる謎 哲学と論理学の交差点
11 「何もない世界」 存在論への論理学的アプローチ
12 前提明示化のテクニック 意味論的前提と語用論的前提
13 演繹と帰納 「健全な推論」の導きかた
14 事実と価値をつなぐ論理 「である」から「べし」を導けるか
15 なぜ、人を殺してはいけないのか? 論理学からの回答
16 嘘つきのパラドクス 背理法の盲点
Ⅱ 人間原理の論理学 論理における「私」の位置
17 「10^40」というミステリー 巨大数仮説と観測選択効果
18 反コペルニクス主義? 人間原理と宇宙原理
19 宇宙は人間を必要としていたか? 目的因という錯覚
20 因果と認識 「証拠」は「原因」ではない
21 名指される宇宙 文法的再定義
22 地球は特別か? 「平凡の原理」による推論
23 さびしい地球人 平凡のパラドクス
24 私たちは多数派である 確率から見た地球外知性
25 文明の寿命を探る デルタt論法
26 必然論から偶然論へ 終末論法の衝撃
27 世界の選択 多宇宙説は予言する
28 「私」の論理
ブックガイド続きを読む投稿日:2021.03.24
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