この作品のレビュー
平均 4.8 (4件のレビュー)
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「異なるもの」への排除の構図
ハンセン病患者に対する隔離政策が誤ったものであったという認識は、
政府レベルでも、民間レベルでもほぼ一致しているのではないかと思う。
では、隔離政策とはもはや「終わったこと」なのか。
本書は、そう…ではない、という。
感染力が弱いから隔離しなくてもよいのか、感染力が強ければ隔離してよいのか?
本書で扱うのは「異なるもの=他者」に対する姿勢そのものである。
人が「異なるもの」に対して排除、隔離、忘却という思考・行動を取ることは、
他の例でも変わらない。
むしろ、ハンセン病問題を通して強く感じることができる普遍的な問題なのではないか、と。
本書は
第一章:ハンセン病を巡って近代日本がどのような対応をしたか
第二章:隔離政策を支えてきた価値観の枠組みの分析
第三章以降:隔離という方法をいかに人権思想と共存させるかを考察
という構成だ。
多くの場合、第一章の部分で断罪して終わるのであろう。
だが、第二章で、隔離政策に携わった人々の強い使命感(正義感)、隔離された人々の、
「他の人に迷惑を掛けてはならない」という思いを知ると、
とても根の深い問題であることに改めて気付く。
「主観的な夢」の脆さ、として著者は次の用に語る。
脆い理想像を信奉する人が、仮構性を忘れてその唯一絶対的な正しさを主張し、
自分たちとはちがう立場の人々=他者を排除していくことがありえる。
ここに挙げられていたのは賀川豊彦、神谷美恵子などのいわゆる「人格者」も多く含まれる。
では、どうすればいいか。著者の模索とともに、
読者自らも模索していかなければならない。
著者は隔離医療と人権思想の共存の試みとして
ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』
に見られる、「最小国家」の概念が有効なのではないかと考える。
その内容については本書で読んでみてほしいが、
なかなかに魅力的、しかし、それをどうやって本書が「病んでいる」とする日本社会に取り入れていくかを考えると、また気が遠くなる思いだ。
複数の価値観が共存しあえる社会を。
この難しさを痛烈に感じる。
続きを読む投稿日:2015.05.12
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日本のハンセン病政策を振り返る一冊。大した根拠もなく、その時代で声の大きかった人に流されるかのようにして、恐ろしく、また恥ずべき政策が長年にわたり幅を利かせた裏側を検証している。ここで糾弾されるべきは…、隔離医療を主張した光田健輔だけではない。それに便乗したり妄信したり、何も言わずにするがままにさせておいた誰もが背負うべきものだろう。読めば、光田健輔だって隔離を主張した裏側には、ユートピア的世界で患者たちが気兼ねなく暮らせるようにしたいという思いがあったようにも思えるし、事実、光田は並みの人ではできないくらい献身的にハンセン病患者と向き合いもした人なのだから。
そして、善意がまた、こういう悪しき政策を悪いものでないように見せてしまうこともまた危険だということを知った。『生きがいについて』の神谷美恵子や『小島の春』の小川正子、キリスト教系の奉仕団体など、よかれと思っていることはわかるが、それが本当に患者のため、世のためになったかというと……というところに疑問を提起している点はこの本の価値ある一点だと思う。もちろん、多くの人が神谷や小川の作品を賛美することで隔離医療を間接的に支持してしまったことも忘れてはならないこと。
とはいえ、患者たちのなかには、「隔離医療は是。なぜなら自分の周りにうつしたくない、迷惑かけたくないと思うだろうから」という声も少なくない。つまり当の被害者たちは意外と達観しているようなこともあるわけで、周りがとやかく言えるものではないこともある。結局どちらかの極に寄れるものではなく、このあたりのバランスのとり方、落としどころを慎重に、慎重に探ることが大事なのだと思う。
こういうことは日本のあらゆるところに巣食っているやり方。まさしく「くさいモノにはふたをしろ」なわけで、こんなことわざがまかり通っているところが日本の病いというわけだ。著者が言う通り、これをハンセン病の話としてだけ読んではいけない。思考することをやめ、主張する人に任せるがために恐ろしい世の中に向かいつつあること、大阪市で、あるいは福島とか現代だって限りなくある。続きを読む投稿日:2012.02.26
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