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ストアトップ > 特集 > Serendipity ~偶発的な出会い~ > vol.44 No Curry, No Life

vol.44 No Curry, No Life インタビュー :水野仁輔さん

食べ歩きのグルメ評論家でもなければ、料理研究家でもない。ただひたすら、「カレーを楽しみたい」。そう語るのは「東京カリ~番長」調理主任の水野仁輔さん。夏ともなれば、カレーのレシピ本やイベントでひっぱりだこの水野さんの、カレーとの出会いから今後の野望まで(!?)、ゆる~く熱く、語っていただきました。

ファースト・カレーはおふくろの味、青春の味

地元・静岡県浜松市に突然できた、本格インドカレー専門店「ボンベイ」。当時、そんなお店は珍しく、ちょっとした話題になりました。両親に連れられて行った、その「ボンベイ」のカレーこそ、僕のファースト・カレー。5歳の僕にとってはかなり刺激的な味はもちろん、インドらしい怪しげな店内装飾や音楽、スパイスの香り…。もう、体験するすべてがまさに"未知との遭遇"でした。以来、小・中・高校と通いつめる日々。中学生ではおこづかいを貯めてはひとりで通ったし、高校時代は学校をサボってまで週1~2回ペースを死守。だから、「ボンベイ」のカレーは、おふくろの味であり、青春の味でもあるんです。

大学で上京して、僕にとってボンベイの存在がどれほど大きなものだったか、思い知らされました。だって、それまで週1ペースで通っていたのに、ボンベイのカレーに会えるのは帰省するお盆と正月のみ…(当然、帰省中は定休日以外ほぼ毎日ボンベイ通い)。このままでは東京で大学生活を送れない!とまで思った僕は、2つの対策を考えました。ひとつは、自分でボンベイのカレーを作れるようになること。もうひとつは、東京でボンベイの代わりになるお店を探すこと。そこで、インド料理店の厨房でアルバイトを始め、同時にガイドブック片手に東京のカレー店を片っ端から食べ歩き始めました。


ショックを乗り越え、本当のカレー人生が始まった!

そんなある日、地元の友達から電話が…。「おい、ボンベイが閉店したぞ!」。あまりのショックにクラクラし、その電話を切った直後、実家の母親に電話をしました。「もしもし。ボンベイが閉店したらしい…。これでもう、僕が帰省する理由はなくなりました」と(笑)。それくらい僕にとってこの事件は衝撃的でした。でも、同時に気づいたんです。ボンベイと離れ、ボンベイの味を東京で必死になって追い求めているうち、インドカレー、いやカレーそのものの奥深さや面白さに虜になっている自分に。クヨクヨしてはいけない、ボンベイが導いてくれたカレーというものに、もっと本気で向き合ってみよう、そう思った瞬間でした。

その当時、カレー作りが得意になっていた僕は、よく友達とカレーパーティを開いていて、あるとき「公園で、お花見みたいな感覚でカレーパーティをやろう!」と盛り上がり、渋谷の恵比寿南一公園で、"路上無許可カレー"会を企画。告知用フライヤーを作ったり、知り合いのDJにその日限りのオリジナルミックステープを作ってもらったり、僕自身もオリジナルカレーを真剣に考えたり。結果は大成功!あまりに楽しかったので「こうなったら、毎月、東京23区の公園を順番にまわろう!」ということになったんです。どうせなら、毎回、テーマや音楽、カレーも趣向を変えて、トコトン楽しみたい!そう思った僕らは、フライヤーも音楽も凝りに凝って作りました。もちろん、カレーも。ハロウィンにはかぼちゃカレー、墓地近くの公園で開催したときは肝試しにかけて砂肝を使った"肝カリ~"とか(笑)。このイベントを続けているうち、主要メンバーがなんとなく決まってきて、それが「東京カリ~番長」結成につながったんです。


大事にしているのは、誰よりも自分がカレーを楽しむこと

東京23区を制覇し終え、「次は47都道府県制覇だ!」なんて話すころには、「東京カリ~番長」は、いろいろなイベントからお声がかかるようになって、ちょっとした出張カレー&音楽集団のようになりました。ただし、声がかかればどこへでも行く、というんじゃないんです。ポリシーはたったひとつ。僕らが、思いっきり楽しめるかどうか。だから、面白そう!と思ったらノーギャラでも赤字でもやる。逆にお金が儲かる話でも楽しくなさそうなことはやらない。世のため、人のためにカレーで何かしたいという気持ちや使命感もあまりないんです。カレーは人をハッピーにする特別な食べ物だとは思うけれど、そこに特別な魅力を感じているわけじゃないから。あくまでも僕が積極的にやりたいと思えるかどうかが、ファーストプライオリティ。身勝手な考え方だけど、これは、東京カリ~番長を始めた13年前からずっと変わってません。

最近、何気なく自分の本を手にとってみたら、その巻末に「何がいちばんイヤですか?」という質問があって、僕は「自分とカレーに飽きるのだけはイヤだ」って答えていたんです。これには思わず笑ってしまいました。僕は昔っから飽きっぽいんです。ほおっておくと、すぐ飽きる(笑)。でも、ものすごい凝り性でもある。これは、と思ったものはトコトンのめり込む。そう考えると、僕にとってカレーとは、僕のいちばん大切な部分、"凝り性と飽き性"を同時に受け止めてくれる、究極の存在なのかもしれません。だって、カレーに関しては、どう楽しもうかということを常に考え、そのために何から何まで凝りまくっているし、だからこそ、もしカレーに飽きてしまったら…なんてことを考えるだけでものすごい恐怖ですから。


あなたにとってカレーとは、なんですか?

カレーに関しての"凝り性"が高じてか、いや、僕自身がカレーに飽きないためなのか、3年ほど前に、カレーに特化したマニアックな本だけを出版する「イートミー出版」http://www.curry-book.com/)という出版社を立ち上げました。と言っても従業員は僕ひとり。そう、水野がひとりで身を削り、赤字を垂れ流す、完全自費制作の超マニアックな出版社(笑)。第一弾が『インド料理をめぐる冒険』シリーズなんですが、これは日本人でありながらインド料理と心中すると決めた、熟練のシェフに、インド料理との出会いやハマった理由等、シェフの半生をじっくり聞いてまとめたもので、現在14巻あります。僕が勝手にリストアップし、勝手にアポを入れ、4時間くらいお話を聞いて原稿をまとめ、勝手に出版。そして、今後取材しようと思っているシェフたちに、1巻出来上がるたびに手紙を添えて勝手にそれを送りつけているんです(笑)。最初は「…こ、これはなんですか?」とキョトンとしていたシェフたちも、回を追うごとに「面白い」と心待ちにしてくれるようになりました。

実はこの本、非売品(笑)。僕自身がカレーに魅了されたシェフたちの人生を知りたいから、そしてそれを知ることがすごく楽しいから、勝手にやっていることなんです。最近では、僕が取材したシェフたちの間で飲み会が開催されるようになりました。その飲み会も何回か続くと僕自身、ちょっと飽きてくる(笑)。そこで、月1回テーマを決めて、彼らがいつも飲み会で熱く語り合っているインド料理の難しさや奥深さについて、座談会形式で展開し、それを出版しようと提案したんです。それが『Labo India』シリーズ。"玉ねぎ"や"ホールスパイス"などインド料理シェフが最も愛し、同時に神経質になるネタをテーマとして取り上げています。

5歳で「ボンベイ」に出会って、カレーの魅力に憑りつかれ、現在38歳。気づいたら、たくさんのカレー本やレシピ本を出版し、数えきれないくらいのイベントにもカレーで出張し、マニアックな出版社まで立ち上げてしまいました。今、イートミー出版で手がけているシリーズに『カレーの金言』というのがあります。これは、全国のカレー店シェフに、「あなたにとってカレーとはなんですか?」という問いに答えてもらい、その答えを金言として印刷したオリジナルコースター。え、僕ですか? 僕にとってカレーとは、「玩具」です。凝り性で飽き性の僕をここまで捉えて離さない、究極の玩具。まだまだカレーで遊びたいし楽しみたい。やりたいことは尽きません。死ぬまで楽しめるんじゃないかな。カレーという玩具に出会えて、僕は本当に幸せです。「あいつはいい歳こいて、いつまでもカレーのことしかやってないよ」。いつかそう言われるおじいちゃんになれたら素敵ですね。

Text/Miho Tanaka(staff on)

水野仁輔さん

プロフィール

水野仁輔 みずのじんすけ
東京カリ~番長 調理主任

1974年、静岡県・浜松市生まれ。1999年結成の出張料理ユニット「東京カリ~番長」の調理主任。カレーの研究、関連著書の執筆から、レシピ本、ラジオ出演、月に一度のインド料理研究会の実施など、カレーにまつわるあらゆる分野で精力的に活動中。2008年にはインド料理研究ユニット「東京スパイス番長」も立ち上げ、年に1度インドを旅し、現地で料理セッションを行っている。近著に『3スパイス&3ステップで作るはじめてのスパイスカレー』(パイインターナショナル)、『東京カリ~番長 水野仁輔の10分!カレー』(筑摩書房)など。カレーに関する書籍を自主制作するイートミー出版(http://www.curry-book.com/)の活動にも力を入れている。
東京カリ~番長のブログカレーhttp://blog.excite.co.jp/tokyocurry/
東京スパイス番長のブログスパイスhttp://spicetokyo.exblog.jp/

水野さんの著書紹介
『水野仁輔の本当は教えたくないカレー 東京最好の100店 RETURNS』 水野仁輔(著)/ スペースシャワーネットワーク
「採点とランキングはしない」という著者が、ただただ偏愛、溺愛するカレー店について熱く語っただけの奇書『水野仁輔の本当は教えたくないカレー東京最好の100店』(2007年発売)。コアなカレーファンの間で、ひっそりと、根強く読み継がれてきた一冊が、あれから5年、 半分以上の掲載店を入れ替え、「ヌーベルインディアン」や「老舗」等のジャンル分けされ“RETURNS”として戻ってきた、待望のカレーバイブル。

『銀座ナイルレストラン物語 日本で最も古く、最も成功したインド料理店』 水野仁輔(著)/ ブルース・インターアクションズ
東銀座で長く愛される老舗インド料理店「ナイルレストラン」。そのご主人・ナイルさんの激動の人生から、定番“ムルギランチ”の誕生秘話、東銀座の裏歴史まで。カレーの裏側にある、シェフの人生ドラマを描きたい、という著者渾身の一冊。
帆帆子さんの仕事場拝見!

凝り性のカレー本

本棚には、インドやイギリスなど、海外に行くたびに買い集めた、カレーのレシピ本やスパイスの本がぎっしり。辞書を片手に翻訳し丁寧にメモを取ってから、レシピを試すことを繰り返しながら、本場の技を独自に習得。「レシピももちろんですが、独創的でオシャレな装丁も、フライヤーや本づくりのデザインの参考にしています」

大好きな将棋本

「好きな本は?」と聞かれたら、将棋本を挙げるほど、実は将棋好きだという水野さん。中でも『将棋の子』(大崎善生/講談社)は、最も好きなノンフィクションだとか。「将棋界のアウトサイダーを描いていて、ぐいぐい読ませる。料理界でもアウトサイダー的存在のインド料理シェフを追いかける僕としては、文体といいテーマといい、お手本としている本です」

こんな本はいかがでしょう

  • ミスター味っ子(2)

    寺沢大介(著)/ 講談社

    ミスター味っ子(2)

    ギトギト油が浮いたスープが最高においしいラーメンになる――!? ミスター味っ子こと味吉陽一(あじよし・よういち)は、同級生のラーメン屋「なかだ」を救うため、ラーメン祭に出品する新しいラーメンを作ることになった!!

  • クッキングパパ カレー編 アンコール刊行

    うえやまとち(著) / 講談社

    クッキングパパ カレー編 アンコール刊行

    本格タイカレーから、昔懐かしい鯨カレーまで!みんな大好き!カレー特集!!ピリッと辛くてほんのり甘い!荒岩パパが教えてくれる感涙モノのレシピも盛りだくさん!!

  • コクと旨味の秘密

    伏木亨(著)/ 新潮社

    コクと旨味の秘密

    赤ワイン+醤油=コク!? 科学の目で探検する「美味しさの世界」。

  • 知っておきたい「味」の世界史

    宮崎正勝(著)/ 角川学芸出版

    知っておきたい「味」の世界史

    人の味覚が世界の歴史を変えてきた!「味」への希求で描くおもしろ世界史。

  • インドなんてもう絶対に行くか!! なますてっ!

    さくら剛(著)/ PHP研究所

    インドなんてもう絶対に行くか!! なますてっ!

    ニートで引きこもりの著者による爆笑インド旅行記。極悪!?インド人との漫才のようなやりとりと激しいツッコミに大爆笑間違いなし!

  • 散歩の達人MOOK (東京カレーさんぽ) (Sony Tablet™のみ対応)

    交通新聞社(出版)/ 交通新聞社

    散歩の達人MOOK (東京カレーさんぽ)

    アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米、そして日本……と、世界中のカレーが食べられる、稀有なる街・東京。編集部が足で稼いだ、全36カ国、104軒のカレーメニューがこの一冊に大集結!さあ、カレーを食べて世界とつながりましょう。※デジタル版には一部収録されていない記事がございますので、ご了承ください。

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