【感想】火花

又吉直樹 / 文春文庫
(734件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
121
254
213
73
18
  • 次回作が楽しみです

    普段、タレントさんが書いた作品というのは全く読まないのですが、
    ”文学界”に掲載された作品ということで随分話題にもなっているので読んでみました。
    いわゆる売れないお笑い芸人が少しずつ売れだして、
    そして解散、引退というところまでを描いた作品になっています。
    売れることのみをわだかまりを持ちながらもよしとする芸人と
    売れなくても自分の目指すお笑いを極めようする芸人。
    二人の対照的な芸人の生き方、そして芸人とはというような話が
    展開されていきます。
    その中の一節で、一つのことをずっと続けてきたことに対して
    ”それは、とてつもない特殊能力を身につけたということやで”
    という一節があります。
    一つのことを愚直に続けるということについて、リスペクトしている
    文章だと思うのですが、ここにはやはり又吉さん自体が芸人ということが
    大きく影響しているのだと思います。
    芸人又吉が客観的に芸人について語る。
    最後は芸人ならではのオチになっています。
    とても、面白い作品でした。
    今後の又吉さんの作品が楽しみです。
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    投稿日:2015.06.12

  • 火花は、散るのか

    芸人だから出版できたという言葉を一蹴するに足る作品。

    芸人が芸人の話しを書くというのは、これまた如何にもだなーと言われそうだけれど、逆に芸人以外にこれだけのリアリティをもってこの物語を書ける人間もいないだろう。

    人を笑わせるという芸人の技術と生き様に対して、正面から描いている。

    芸人だから読者を笑わせよう、ということではなく、
    笑いそのもの、そして人を笑わせるという職業ひいては生き方そのものが表出されている。

    言葉、特に会話のテンポはさすが。これは芸人としての経験が活きているといえる。
    本を愛し、たくさんの本を読んできた人間が物語を書くというのはある種の勇気でもある。

    笑いは楽しいものであるが、苦しいものかもしれない。

    自分が最も得意とするお笑いを描いた後、何を書くのか。
    二作目が楽しみだ。
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    投稿日:2015.06.15

  • 芸人の私小説なんてとんでもない。センスあふれる抒情的表現に引き込まれる人間小説

    売れない後輩芸人と、借金まみれで破天荒ながら哲学的に後輩を導く天才肌の先輩芸人。その二人のやり取りを中心とした、ヒューマンストーリー。

    誰かの生死がかかるとか、ドラマチックな駆け引きがあるとかいう起伏が激しいわけではなく、かといってつまらないわけでもなく、ただただ主人公・徳永に話をする、先輩芸人・神谷の言葉がいちいち心に刺さりまくって痛い。
    二人の会話が何とも抒情的で、刺激的で、ウィットに富んでいて、読者が芸人の世界に興味があろうとなかろうと、誰の人生においても当てはまり、私も何でもないようなところで、何故か涙ぐんでしまったこともあった。
    芸人・ピース又吉の人生観と、作家・又吉直樹の引き出しの深さと大きさが相まって、短い作品ながらも、これまでの読書の中で思わずブックマークやハイライトを付けた箇所が一番多かった作品。

    以下私が一番印象に残った表現を引用する。

    以下、本文引用
    「誹謗中傷は・・・・・(中略)、他を落とすことによって、今の自分で安心するというやり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。可哀想やと思わへん?(中略)俺な、あれ、ゆっくりな自殺に見えるねん」(引用終わり)

    ゆっくりな自殺・・・人として一番痛々しい末路かもしれない。

    心に刺激ではなく、一筋の指針が欲しいとき、何度となく読み返したくなる一冊となった。
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    投稿日:2015.07.16

  • 笑う面白さではなく、突き詰めていく面白さがある。

    幼い頃より今までお笑い漬けの関西にいて、ピースの漫才やバラエティーも見てきました。
    もちろん芥川賞候補というのも手伝って読もうと思いました。
    それはさて置き、最初の1ページ目位の情景描写のなんと繊細かつパンチのあること。思わず一旦閉じました。
    こんな感じで来るとは思っていなかったので、深呼吸しながら太い根性に入れ替えました。
    その後ずっとそれが正解でした。
    漫才とは何か?自分の思うその本質とは?狂気とも思えてくる2人のぶつけ合いは続くのですが、
    入口が広く(読み始め)息苦しさに出口が狭い感じ。でも最後の1ページでストンと胸に落ちてくれました。
    関西弁なので、たとえキツイ言葉でも暖かさが伝わってくる表現で、心に残る作品でした。
    P.S. 誰がこんな事考えんねんという程の『蠅川柳』めっちゃツボに入りました。
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    投稿日:2015.06.29

  • 文章は

     文章は思ったよりずっとうまいと感じられます。あまり奇をてらうわけではなく,でも言葉の選び方は良い,っていう感じで。
    今回の中身は芸人の話なんですが,ちょっと共感をもつのは難しいところもありました。
    ある程度売れるまでに何があったのか,が描かれていないし。
    (直木賞に比べて)芥川賞の対象になる小説がもともとあまり好きではないからというのもあるのかな。
    今回受賞がどうなるのかは正直よく分かりません。

    いずれにしても,次回作,芸人の話でないときに真価が問われるのではないかと思います。
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    投稿日:2015.06.30

  • 私の感覚が鈍いのか??

    敢えてなのかわからないけど、もうちょっとわかりやすく書いてもいいんじゃないのかなぁ?という文章のところがあって、
    そっか、これが純文学なのか…と思いました。
    期待しすぎていたのか、それほど面白いとは思わなかった。
    お笑いって大変な世界なのね、と思ったのと当時に、出てくる人がなんだかすごく痛々しくて、
    これからお笑い芸人をテレビで見るのがちょっとつらくなりそうです。

    主人公が天才だと思っている先輩、ですが、この人天才かなぁ?
    激しいタイプの笑いって、ちょっとわからないです。

    等々と、かなりのツッコミが私の中で湧いてしまいました。
    もうちょっとしたら読み返してみたらまた違う気持ちになれるかもしれません。
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    投稿日:2015.09.03

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ブクログレビュー

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  • 浮世

    浮世

    このレビューはネタバレを含みます

    売れない漫才師・徳永からみた、芸人であるということと、その生き様。

    『人と違うことをせなあかん』

    そう繰り返す、4つ年上の先輩芸人・神谷さんを師として慕うようになってからの、芸人人生の苦悩や葛藤を描いた物語。

    ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
    印象に残った箇所をいくつか。

    ○「喫茶店のマスターの厚意を無下にしたくないという気持ちは理解できる。だが、その想いを雨が降っていないのに傘を差すという行為に託すことが最善であると信じて疑わない純真さを、僕は憧憬と嫉妬と僅かな侮蔑が入り混じった感情で恐れながら愛するのである。」
    ⇒見事な表現と描写。”僕”に映る神谷さんという人物は、これ以上でもこれ以下でもなく、純粋な人物なのだ。一度ついた汚れや皺は完全には取り除けないように、純真さは不可逆性を孕む。自分に対してある意味穢れの無い生き方を選択できる神谷さんに対して、もう戻れない道の先で、”僕”はこのような複雑な感情を抱くことになる。

    ○「一見すると独特に見えても、それがどこかで流行っているのなら、それがいかに少数派で奇抜であったとしても、それは個性だと言えないのだ」
    ○「たとえば一年を通してピエロの格好を全うするという人がいた場合、これは個性と言っていい」
    ⇒神谷さんの、個性哲学。個性とは、目に見える能力だけではない。習慣も、個性となり得る、と。確かに。面白い。個性的であるには、盲目的でなければならないのかもしれない。いや、それだけではないか。
    独自の習慣と思っていたことが、実は他の誰かが先に発明していたとしよう。それを知った時、模倣だと揶揄された時、その習慣を辞めてしまうことは、実に個性的ではない行動だと思う。”相対的な個”に成り下がってしまっている。
    真の個性とは、”盲目であることを選択できる”ことではないだろうか。周囲の声を知っても、敢えて聞こえないふりをする、一貫した自己を持つ者が”絶対的な個”にふさわしい、などと。――――『人と違うことをせなあかん』

    ○「神谷さんから僕が学んだことは、『自分らしく生きる』という、居酒屋の便所に貼ってあるような単純な言葉の、血の通った激情の実践編だった。」
    ⇒上述した個性について考えると、神谷さんから学ぶ「自分らしく生きる」とは、実に含蓄に富んだ深い言葉であるように思う。実際、最後に”僕”が芸人を終える際、敢えて神谷さんには相談していない。模倣をやめ、周りの声を遮断している。


    総括。数年後、また読みにくるだろうなぁ、と思わされる本だった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.04.15

  • とんかつ

    とんかつ

    この本を読むと本当に面白い人ってもはや面白くないんじゃないかと思ってしまうような、面白いってなんぞやというような芸人の世界の厳しさや美しさ、時間の流れの速さが少し知れたような気がしました。
    本当に人生って一瞬でその中でさらに一瞬しかない火花を芸人はもちろん僕たちも求めているような気がします。その火花は自分が求めているタイミングで咲かせることができる人もいるしそうじゃない人もいる。でも生きてる限りどこかで咲かせられると最後の文で伝えたかったのじゃないかと僕は読み取りました。続きを読む

    投稿日:2024.04.08

  • lho

    lho

    お笑いをやったことのない人間が到底書けるフィクションではない。読み始めた時は、この作品が「文学」の賞を取っていることに疑問だったが、読んでいくとその理由がわかる。自分の文学に対する視野がまた広がったと感心させられる。

    語り手の思考回路を見れる我々読者からすれば、語り手がなぜ漫才をやっているのか、お笑い、お笑い芸人が好きなのかが不思議なくらい、徳永は考え事が多い。

    先輩の神谷さんは、そうそう見かけない異常な人間だ。けれど理解できる。むしろ人間らしい。我々が偶然身につけられた「常識」を偶然身につけられなかっただけ。そんな純粋な神谷さんが歳と共に狂ってしまっただけ。

    真城さんの存在は、言葉にするのが難しいが、非常に良い隠し味のようなものだった。遠回しな例えをすると、「もしこの人が自分と同年代で未婚なら真っ先にナンパしていただろうな」と思えるくらい好みの40、50代の女性に対して感じる哀しさに近い。届かない場所にいるはずなのに、もしかしたら自分にも勝機があったかも、と言う世界線を妄想して哀しくなるのだ。
    続きを読む

    投稿日:2024.04.05

  • しろねこ

    しろねこ

    泣けたシーン
    p141「おめでとう。ほんなら、急いで3人と双子とで住む家探さなあかんな」
    p143「誰かには届いていたのだ。少なくとも誰かにとって僕たちは漫才師だったのだ」
    p143ラストライブ

    10年経つと二人の関係性がこんなにも変わってしまうなんて。お笑いを取り巻く多くの人生に笑いと感動があった。続きを読む

    投稿日:2024.04.05

  • 犬のかたち

    犬のかたち

    ああすごい泣いちゃったなあ、

    私がまだ青いからかもしれないけど、常に自分の中で創造と破壊を繰り返して刹那的に笑いを求める神谷がすごい眩しくかっこ良く見えてしまった。
    けどもしかしたら全然かっこよくなんかなかったのかもしれないと読後の今になって思う。
    彼はあまりにも自分に純真すぎるが故に屈折しまくっていた。
    その屈折光が伝播した先にいたのが徳永。
    徳永は独自の想像力で静かながらもどこか常に怯えて竦んでいるように感じられた。
    だから恐れを知らない神谷との組み合わせは正直しっくり来ないというか、正解ではなかったように感じる。
    互いに抱いていた思いは尊敬や畏怖だけではなくてきっと羨望、憎しみ、嫉妬、愛情と一口に言えるものではなかったんだろう。
    けど不器用な2人の絶妙なそのアンバランスさはとても居心地が良かった。

    数多の出会いや別れによって付いた傷だらけの、
    その荒削りな人生が愛おしい。

    お金や仕事、家族や恋人、社会的地位、それらによって形成される生活その全てを投げ打ってでも自分の信じた道を突き進むことは幸せなのか。
    自分の手で夢を終わらすのは諦めなのか妥協なのか。
    そもそも諦めるってなんだ、夢ってなんだ、なんのために生きてるんだと彼らがこちらに問いを投げかけてくるようで、終盤何度もページを捲るのをためらってしまった。
    歪に生き続ける彼らを見て、結局そんな問いを思い浮かべたところで一生正解になんて出会えないんだろうなと思うとどこか寂しくもあり安心もした。
    あほんだら、こんなん見せられたら生きるしかないじゃん。


    「エジソンが発明したのは闇」
    「エジソンを発明したのはくらい地下室」
    という彼らのメールのやり取りがなんだかすごいお気に入り。
    走り続けた先に光があるのかは分からないけど、走ったことで生じる風を心地良いと感じた人は少なからずいるし、私はこの本を読んで心にぼうっと希望みたいな、光みたいな何かが生まれた。
    光があれば影があるけど今ならそのどちらも愛せる気がする。

    筆者が漫才師だからか文章に血が通っているように感じられて良かった。
    滲み出る又吉さんなりの漫才や人生に対する哲学に少し触れられた気がして嬉しい。
    2010のM-1でのピースのネタ、ほんとに好きなんだよな。
    続きを読む

    投稿日:2024.04.02

  • あやみ

    あやみ

    2024.03.29 読了。

    有隣堂のYouTubeで又吉さんを拝見して興味を持ったので読むことにした。わたしは、テレビでお笑いを見ても笑いがわからないことが多いのでほとんど見たことがないし、実生活でもボケつぶしと言われたことが何度もあるくらい笑いのセンスがないつまらない人間なので、なんとなく接点を持っては申し訳ない気がしていたけど、この作品から感じたお笑い業界というのは悲哀に満ちたものだった。終盤に差し掛かった頃から微妙におかしみと物寂しさがミックスされた空気が醸され、なるほど芥川賞。続きを読む

    投稿日:2024.03.29

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