【感想】裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

堀川惠子 / 講談社文庫
(11件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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  • 人が人を殺める理由

    最高検察庁検事を務め、退職後は大学教授として法に関わり続けてきた土本武司。彼はかつて、人生で唯一死刑を求刑した死刑囚から、なぜか感謝の言葉が記された年賀状を受け取ったことがありました。

    なぜ彼は、そんなメッセージを送ってきたのか?
    また彼は、なぜこんな事件を引き起こしたのか?

    土本がこぼした「昔話」から、ジャーナリストの堀川惠子が事件の真相を探っていきます。弁護士や彼の知人、親戚たちへの丹念なインタビューから少しずつ事件の全容が照らされていく様は、まるで小説のような読み心地。物語としてのスリリングさも持ち合わせつつ、死刑という制度の根幹を改めて考えさせられます。
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    投稿日:2016.04.12

ブクログレビュー

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  • sasha89

    sasha89

    それはまだ「永山基準」と呼ばれる死刑基準が出来る前の
    ことだ。1966年に強盗殺人事件の容疑で逮捕されたのは
    長谷川武、22歳。

    ほとんど弁明もせずに、彼は一審での死刑判決を受け入れた。
    しかし、母には受け入れがたい判決だった。母からの熱心な
    懇願で、小林健治弁護士は二審の弁護を引き受ける。

    だが、一審の死刑判決が覆ることはなかった。1971年11月9日、
    9時32分。28歳になった長谷川武は「従容として」刑場に消えた。

    本書は、別件の取材で検事・土本武司の元を訪れていた著者に
    獄中から届いた手紙を見せられたことから始まった、死刑制度を
    問う作品だ。

    それは、一審で死刑求刑を書いた土本へ、獄中の長谷川が
    書き送った手紙だった。恨みつらみが書かれているのではない。
    手紙には土本への感謝が綴られていた。

    彼はどうしてこれを書いたのだろう。

    既に長谷川本人はこの世にいない。世間を騒がせた重大事件では
    ない。悪い言い方だが、ありふれた強盗殺人事件だ。多くの
    資料が残されている訳もない。

    それでも著者は関係者を探し出し、長谷川の生い立ち、彼に影響
    を与えたであろう母のルーツを探し当てる。そして、幼くして
    養子に出された長谷川の弟さえ探し出した。

    長谷川が手紙を送っていたのは土本だけではなかった。二審を
    受け持った小林弁護士、事件直前まで勤務していた会社社長の
    元へも手紙が送られて来ていた。

    本書には長谷川が残した手紙全文が多く引用されている。そこ
    には自分の犯した罪を自覚し、罰を受け入れることで強盗殺人
    事件の犯人とは思えないほどの心の穏やかさがあった。

    人は、変われる。長谷川の手紙を読んでぼんやりと感じていた
    ことが確信に変わった。

    勿論、古い事件だけに著者の取材でもはっきとは分からない
    部分もあり、もやっとした気持ちになることもあったが根気よく
    綿密に取材が行われたのが分かる良書だ。

    死刑囚の待遇も、今よりは緩かったこともわかる。人間的に
    接することで何かが変わることがあるのではないかな。

    「悪い事をしたら罰を受ける、人を殺したら命で償うという
    のは分かりやすいロジックではあるけれど、死刑は法律が
    認めた、いわば国家による殺人と言ってもいい。目の前で
    動いている、生きている人間を殺すことなんですから。
    死刑は本来、究極の選択でなくてはならないんですがね……」

    死刑維持派と言われる土本の言葉だ。究極の選択をしなければ
    ならなかった検事の苦悩から、もう一度、日本の死刑制度を
    見直してみてもいいのではないか。

    死刑は、命ばかりか更生の可能性さえ奪ってしまうのだから。

    骨太のノンフィクションはやっぱり読みごたえがある。
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    投稿日:2023.11.09

  • 昔南京にいた女

    昔南京にいた女

    この記者の、取材対象への執念にはいつも驚かされる。
    検事の葛藤がよくわかった。
    昔の東京拘置所の寛容な対応や、教誨師の存在、立ち会った人たちによる処刑についての証言など興味深い。
    私自身はどちらかというと廃止かな、くらいで死刑に対して強い意見を持っているわけではない。
    ただ、本書は、長谷川武が死刑判決を受けた後に更生している様子を見せていたことを受けて「あんなふうに変わってくれたのに死刑執行してよかったのか」と葛藤するということが描かれているが、私は、そもそも長谷川武があんなに澄み切った気持ちになれたのは死刑判決を受けたからなのではないか?と感じた。
    生への諦念が生まれて初めて悟りを得たような心境になり、自分の罪と真摯に向き合えたのではないかなと。
    たらればになってしまうし実際のところは分からないけど、難しいな。
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    投稿日:2023.04.17

  • chiko

    chiko

    苦しい、苦しく切ない死刑囚の話だ。
    いつだって貧困やいじめはこのような悲しい事件を引き起こしてしまう。

    28歳で執行された長谷川武死刑囚
    貧しい生活の中で高級な腕時計をローンを組んで買っていた、贅沢すぎると怒られた時に自分はこの腕時計が欲しかったわけじゃない、いつも貧乏な生活で我慢ばかりして引け目を負って生きてきたけど、この高価な品を持っているだけでなぜか心が安らいだ、安心できたと。
    自分もみんなと同じ一人前の人間なんだと確認できたと。
    ただ、ただ普通でいたいだけだったのにと思うと胸が締め付けられる。

    最後の夜に食べたいと求めたラーメンとお寿司
    寝ずに書いた手紙たち、28歳の彼の魂が切ない。
    しかし、したことの罪は償わなければいけない現実に読んでいて苦しくなった。
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    投稿日:2022.06.25

  • しおり

    しおり

    社会の課題を見つめる新たな視点をもらえた。
    取材力が凄まじい。
    構成も素晴らしく、寝食を忘れて読んだ。

    投稿日:2021.08.05

  • ハデルメデル

    ハデルメデル

    このレビューはネタバレを含みます

    折しも大量の死刑執行で死刑が話題になっているタイミングで、読了。
    大切にゆっくり読んでいたのに、現在出ている堀川恵子作品はすべて読了。
    なんと豊かな時間だったろう。
    早く次回作が読みたい。


    さて、本作は、長谷川武という、強盗殺人を犯し50年近く前に処刑された男にまつわる話。
    『永山則夫 封印された鑑定記録』や、『永山基準』のように死刑の是非についてを読者は読みながら考えるのだろうが、堀川の綿密な取材によって、誰も掘り返さなかったはずの、ひとつの家族の歴史が蘇ることに、私は注目したい。どんな家族にも、誰かが生まれる限り、過去は膨大にあるのだ。そして、人間である限り、誰かと関わり、もしくは誰とも関われなかったから、罪科を犯してしまう。掛け違ったボタンはどこにあるのか。自分のボタンはほんとうにずれてはいないのか。

    長谷川武も、永山則夫も、自分の親とほぼ同世代である。少し遡ろうとすると、イメージが白黒になる時代が彼らの青春時代だ。ほんとうに歴史から見たらごくわずかな時間なのに、さらに彼らの親の世代は、豊かな現在では想像もつかない、途方も無い苦労をしてきている。それに引き換え、我々はなんと呑気なことだろう。それでも、犯罪は絶えない。いや、それゆえに、だろうか。

    本書を読んでいると、どうしても長谷川武に同情的になってしまう。しかし、すべてに見捨てられていた永山則夫と違い、彼には犯罪を犯さなくていい、ルートきっといくらもあったように思えるのに。手に職があり、認めてくれ、給料も奮発してくれている雇い主、それだけではだめだったのだろうか。
    もし一瞬、ほんの一瞬、我慢ができていたなら、彼は今小さな工場でも開き、高度経済成長にのって豊かになる時代を生き、文鳥や可愛い孫にでも恵まれていただろうなと思うと、やるせない。

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    投稿日:2018.07.08

  • たりらりらん

    たりらりらん

    2018.05.30.読了
    かなり重い題材、内容。
    フィクションではないので星をつけることに抵抗があるが読み物としては星3つ。
    裁かれた命は50年前の事件を扱ったもの
    強盗殺人を犯し死刑判決を受けた長谷川武氏が板金工として順調に仕事をしていた時期に何故突然犯罪に走り始めたのか?が不明のまま。
    取材にかなりの手を掛けたことはよくわかるが、イマイチ突き詰められていない部分が多い。
    冤罪ではないし、長谷川武氏の手紙を読む限り彼に更生の余地は十分あったと考えられるが、不明な部分が明らかにされない限りこの判決が正しかったのかどうかの判断は出来ない。長谷川氏がどんなに悔悟の気持ちや償いの気持ちを手紙に綴ったところで、本書を読んだだけで、彼はいい人だったのに何故死刑にならなければいけなかったのか?!などと簡単には言い切れない
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    投稿日:2018.05.30

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