【感想】ファスト&スロー (上)

ダニエル・カーネマン, 村井章子 / ハヤカワ・ノンフィクション
(77件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
28
26
12
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0
  • 自信を揺らがせ、深い自省の念を抱かせる好著

    脳は、因果関係が大好きだが統計的な推論にはとんと弱く、偶然の罠にもたやすく陥る。後講釈も大好きで、一貫したストーリーを作りたがるが、予想外の出来事が起こるとたちどころに記憶を消去し修正する。
    平均への回帰なんて説明では満足できず、そのため直感は、不可避的にバイアスがかかる。だけどその修正は、ホームランを打つチャンスを減じてしまう。
    「主観的な自信は感覚であって判断ではない」が印象的。
    これからはある予測や行為に自信を感じたら、それは正しいことだからではなく、脳がつじつまが合ってると喜んでいるに過ぎないと思おう。

    著者は、直感を信じるなと言ってるのではない。過信するなと言ってる。過去や歴史を十分に理解し教訓が得れるなんていうのは幻想だし、将来や未来を知り得るとというのも思い込みにすぎない。倫理的にも社会規範的にも支持される行為であっても、われわれが本来備えている見方と合致しなければ、その望ましい結果にまで目を瞑ることになる。

    社会も、標準業務から逸脱したがらない役所の連中や慣例通りの治療に満足する医師のように、リスク回避に走る生き方が一般的になりつつある一方で、一発逆転の無謀な賭けに出るギャンブラーが時に無批判で賞賛されている。

    ニスベットとボージダの「人助け実験」の結果は考えさせられる。統計的な数字に納得しても、いざ感じの良い被験者を見ると、そんなことはすっかり忘れてしまうのは、総論賛成各論反対のいまの政界や、財政再建のために増税が必要だと分かっていもいざ報道で低所得層にどれだけ負担が増すかを知ると先延ばしする心性に通じている。

    本書の端々で「自分がこの分野の第一人者である」ことを読者に分からせる書き方。
    最後に著者近影を見て、鼻の穴の大きなドナルドダッグみたいな顔だと思った。

    読み通すのに時間がかかるのは仕方がない。頭では分かったつもりなのにそう見えてしまう有名な錯視の2本の線を終始見続けてるよう。自信は打ち砕かれ、何をよりどころとすれば良いのか(統計か?)途方に暮れるのだから。
    本書を読んで、深い自省の念を抱くか、自覚的に利用してやろうというよこしまな気持ちが芽生えるかは読者次第。
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    投稿日:2013.12.11

  • 2000文字では紹介しきれない

    著者はノーベル経済学賞をとった心理学者。似た様なテーマの選択の科学、錯覚の科学も良かったが1冊だけ読むならこちらがおすすめです。ただしボリュームはあるけど。

    まずはシステム1(fast)とシステム2(slow)という本書の主人公?の紹介から。

    システム1は自動で働き直感的な判断を支配する。話をしながら歩いても前から来た人とぶつからないのも、人の顔をぱっと見て感情を読み取るのも簡単な計算に即答するのもシステム1。難しいことができないと言うのではなく訓練によって高度な技能もシステム1が支配できるようになる。例えば羽生さんが一目で指し手が見えたり、イチローが瞬間的に打球の行方を判断したりといったこともできる。ただしシステム1は注意深くなく簡単な結論に飛びつきがちである。自信満々の政治家は頼もしく見えるが統計的には自信たっぷりの態度と成果にはなんら関係がない。

    システム2は注意力を要する雑音の中で特定の人の声を聞き分ける、2桁のかけ算をするなど。例えば歩きながら1桁のかけ算は問題なくできる。しかし多くの人は歩きながら2桁のかけ算をしようとするとリソースがシステム2に集中するため足が止まってしまう。難しいことをするかどうかではなく集中力を振り向けることに関連する。面白いことにシステム2が働くときには瞳孔が開くらしい。
    人の話を注意して聞いているか、聞き流してるかは目を見りゃわかると言うことですな。しかしシステム2は怠け者で疲れてくるとシステム1の直感的な答えを受け入れるようになる。

    問題1
    バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
    バットはボールより1ドル高いです。
    ではボールはいくらでしょう。
    直感的に浮かんだ答えが間違っていたとしたらそれはシステム2が怠けてシステム1に判断を任せてしまったからだ。

    認知容易性
    中身が全く同じだとしても手書きで字が汚かったり、フォントが小さく改行もなくて読みにくかったりすると印象が悪く、中身自体の評価を落とされてしまう。見た目の悪さがシステム2を呼び起こしてしまうようだ。

    単純接触効果
    繰り返し聞かされた言葉にはなんとなく好意を持ってしまう。コマーシャルや選挙演説もこれを狙っている。好きなコマーシャルを見て笑顔になるとシステム1の働きで何となく商品に好意を覚えるが、名前を連呼するだけのおっさんの話は無意識にしかめ面になり、きちんとシステム2が監視するので好意は持てないということか。ざまあみろ。

    結論に飛びつくマシン
    本文中で時々実験をさせられる。
    ABC,ANN aproached the bank,121314と3つの文字が並んでおり、さあどんな仕掛けだろうと見ていたが気がつかなかった。
    Bと13が全く同じ字だったのだ。システム1は自動連想でBと13をそれぞれ認識してしまった。

    アンカリング効果
    未知の数字を見積もる時にある数字が提示されるとその数字がアンカー(いかり)となって見積もり結果に影響を与える。昔タイに行った時にパッチもんの時計を買ったことがある。3000バーツと言うので一声300バーツと言ったらあっさりOK。ふっかけられるのは分かっているが3000がアンカーで、1/10と見積もったわけだ。ではスタートが5000や1000だったらいくらと答えたのだろうか。あるいは100や30000だったら?多分それ以上相手にしなかったと思うあまりにも外れた数字はアンカーにならない。
    じゃあどうやって交渉するのか?
    「そこで私は交渉術のクラスで、次のように教えている。相手が途方もない値段を吹っかけてきたと感じたら、同じように途方もない安値で応じてはだめだ。値段の差が大きすぎて、交渉で歩み寄るのは難しい。それよりも効果的なのは、大げさに文句を言い、憤然と席を立つか、そうする素振りをすることだ。そうやって、そんな数字をもとにして交渉を続ける気はさらさらないことを、自分にも相手にもはっきりと示す。」
    続きを読む

    投稿日:2014.01.01

ブクログレビュー

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  • don

    don

    ダニエル・カーネマン。人びとの日常における判断がいかにいいかげんかわかり、とても面白い。
    大筋は認知的錯覚について説明し、それをさらに3つの観点から説明している。下巻は経済学との関連が多く難しかったが、実験や例えなどが大量に散りばめられておりページをめくるたびにへぇ~と感じるだろう。翻訳もので上下巻だが尻込みせず読んでほしい。続きを読む

    投稿日:2023.06.20

  • zo3zo3

    zo3zo3

    面白い本だった。
    人間が周りの環境に影響を受け、いかにいい加減な判断をしているかという事が良くわかった。

    確かにアンカー効果みたいなのは、オークションでの言い値では感じる事である。
    しかしその影響を取り払う事ができないのが人間なのだろう。
    続きを読む

    投稿日:2021.12.18

  • スタヰル

    スタヰル

    # ヒトの思考・判断プロセスに一石を投じた名著

    ## 面白かったところ

    * `1 + 1` の解と `24 × 17` の解が導かれるまでの時間差異から、ヒトの思考には少なくとも2つ以上存在する。などの研究結果がとても興味を唆られた点

    * ヒトの思考や判断には特徴があって、それを理解していた上で異なる行動を図ろうとしても並々ならぬ注意力が必要だと知れる点

    ## 微妙だったところ

    * シンプルに、記述量が多く理解が難しい。これはまだ上巻で下巻も同程度の分量で存在する

    ## 感想

    学生時代、後輩に勧められて購入した一冊。当時の自分の読書レベルでは到底太刀打ちできなかった苦い思い出から一念発起して再度読書に挑戦。

    前半部分は、特に自分を通じてヒトの特徴的な癖を体感しながら学習することがでた。

    後半部分では、もう少し俯瞰してヒトの思考・判断行動を観察。理解はできても納得は難しいヒトの行動を魁に、世の中の事象に切り込んでいく様子を垣間見ることができ、読み応えがあった。

    下巻もとても楽しみである。
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    投稿日:2021.10.02

  • bachbygg

    bachbygg

    意思決定、行動経済学の本。この本については多くの方が書評しているので省略するが、内容は様々な類書やメディアで引用されているので、既に知っている記述も多かった。文章がやや難しく感じたが、頑張って読むだけの価値はある。人生の重大な局面で、自分の意思決定に必ず役に立つ本だと思う。続きを読む

    投稿日:2021.08.21

  • うたたね日和

    うたたね日和

    行動経済学に興味がある人ならきっと聞いたことのある本であるし、そうでなくとも、出てくる話や実験をどこかで耳にしたことがある人は少なくないはず。
    でも、そんなことは抜きにぜひ読んでほしい一冊。掛け値なしに面白い。

    直感や熟考といった私たちの様々な思考の形態が、実際のところどんな働きをしているのか。
    数々のユーモアあふれる実験結果とともに、筆者が紐解いてくれる。
    読み進めるうちに、自分の身近な例で思い当たることも色々と出てきて、より引き込まれるだろう。

    余談だが、上下巻としてもかなりのページ数と文章量があり、正直なところ物理的にそれなりに重い。
    比較的平易な翻訳がされているので、手段があるならオーディオブックを探して聞くのも有効な手かと。
    ※自分は上巻途中から耳に切り替え
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    投稿日:2021.04.10

  • とびきち

    とびきち

    自分で決定してると思っていることの、なんと無意識の気分(システム1)に誘導されていることが多いんだろう!本書をよむと、いかに直感がでたらめなのかよく分かる。迷ったら直感に従うことを心情にしてる人こそ読むべき。続きを読む

    投稿日:2020.10.04

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