直木賞物語
川口則弘(著)
/文春文庫
作品情報
直木賞を愛してやまぬ著者が贈る“直木賞のすべて” 選考委員がふたりしか来ない選考会? 選考基準どころか賞の対象範囲も定かではない!? あなたの知らない直木賞の真実がここに。 芥川賞と並び称されるも、大衆文学・エンタメ小説が対象の直木賞はいつもオマケ扱い、 その時々の選考会でブレまくる選考基準、山本周五郎賞や 「このミステリーがすごい!」、本屋大賞など次々とライバルが出現! 波乱万丈の直木賞の歴史を、人気サイト「直木賞のすべて」を運営する 著者が描く、人間臭さ全開のドキュメント。
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商品情報
- シリーズ
- 直木賞物語
- 著者
- 川口則弘
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2017.02.10
- Reader Store発売日
- 2017.02.24
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 592ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (2件のレビュー)
-
ちょうどこれを読んでいるときに第162回の芥川賞と直木賞の受賞作が決まりました。
直木賞は川越宗一「熱源」。この本の著者的にはSFの「嘘と正典」や売れっ子湊かなえ、今更ながらの候補者誉田哲也はやっぱり…賞に手が届かなかったか、と面白がっているところでしょうか。
昔々、恩師から頂いた新潮文庫の星新一が自分が児童書から踏み出した最初の一歩でした。もっと読んでみたいと思ったときにまず頼りになったのは、作者別に並んでいる書店の棚と、その文庫に収録されている作者の本が「星新一の本」として一覧にまとめられている文庫のカバーの折り返し。
でもこれだと、手に取ることができるのは同じ作者の本ばかり。別の作家の本に手を伸ばそうと思ったときに参考になったのは、文庫の解説や後書きに出てくる名前でした。結果、星新一の次は筒井康隆や小松左京や北杜夫や畑正憲ばかり読んでいました。
書評などを参考にすることや、ヒット作・ミリオンセラーを手に取ることは恥ずかしいことだなんて厨二病的な思い込みをしていたこともあって、一度気に入ったら同じ作家の本ばかりを集中的に読み、次はジャンルや作風が似ている作者の本ばかりを読むという自分の癖はこの頃形成され、それを今に至るまで引きずっているようです。
でもある日、書店の文庫の棚を前に、好きな作家の未読の本がもうなくなってしまった一方、読んだことがない作家の本が膨大にあることを目の当たりにして、どうやって次に読む作家を決めればいいの、と思い悩んでしまいました。そんな時ふと思い付いたのは「直木賞受賞作」という基準。それまで文学賞なんて気にしたことはなかったのに、宮部みゆきが直木賞を取ったって報道を見た覚えがあったからでしょうか。エンターテインメント作品に贈られる賞の受賞作なんだから読みやすく面白いに違いない、と思って読み始め、「王妃の離婚」「青春デンデケデケデケ」「マークスの山」「テロリストのパラソル」「凍える牙」など、これまで手を出さなかった作家、作品に多く出会えたこともあり、この調子で全受賞作を読破しようなんて力んでいたこともありました。
そんな時に出会ったのが、この本のもとになっているサイト「直木賞のすべて」でした。
歴代の受賞作にとどまらず、全候補作、受賞作家とその他の文学賞の受賞・候補作、全選評の概要などがまとめられ、さらに「直木賞受賞作全作読破への道」なんて、まさに自分のために書いてくれたんじゃないかと言わんばかりの企画もあって、夢中になって読み込んでしまいました。
この本は、その「直木賞のすべて」を下敷きに、2016年の第155回までの各回次毎に選考委員、候補作を示した上で、選考にあたっての議論や世評をまとめた書物です。全選評や候補作家の詳細など、網羅的なデータはサイトに任せ、本としては各回次の特徴的な選評やマスコミでの話題、見所などを取り上げて、読み物として楽しめるように仕上がっています。少なくとも近現代日本文学史ではなく「文学賞史」であって、もっと言えばそれを面白がる読み物、すなわち「物語」として読めるようになっています。
一読して思ったのは、自分はここまで「直木賞を面白がる」ことはまだできないな、ということです。
芥川賞に比べて直木賞は自分が好きでたくさん読んでいる作家が候補になることが多いので、好きな作家の受賞に安堵し、無理解で頓珍漢な選評に憤慨し、とにかく結果に一喜一憂してしまいます。
でも、全結果を鳥瞰してみれば著者の主張するとおり「大衆小説作品に与えられる文学賞」といいつつ直木賞における「大衆小説」はエンターテインメントでもヒット作でもないことは歴然としています。候補作の選定方法は不透明で選考委員の選考基準は毎回都合よく変遷し、受賞作が話題になるのは授賞式からわずかの間、受賞したからと言って売れるとは限らない、とこの賞と文学的権威や商業的成功との相関は限定的であり、付き合い方としては面白がることが一番無難なんでしょう。
…そうは言っても、取り上げられている時代が今に近づき、候補作受賞作やあまつさえ選考委員の多くを見知っている頃になると、どうしても感情移入してしまうんですよねえ…。宮部みゆきに授賞させるのにどんだけ時間かかってるんだよ、渡辺淳一の書評はなんだよ、ああいうのを老害って言うんだよ、なあんて、一歩引いて「面白がる」ことは難しいんですよねえ。
著者本人が後書きで書いているとおり、「芥川賞物語」に比べ、力の入り方が違います。もう本の厚さを比べれば一目瞭然です。直木賞に注目していた自分としても思い入れをもって最後まで読み通しました。で、最後まで読んで、「せっかく読むんだったら、本屋大賞か、『このミステリーがすごい!』大賞か、山本周五郎賞か、それとも日本SF大賞かの受賞作のほうが自分には楽しめるんじゃ?」と考え込んでしまいました…。
まあ「芥川賞物語」の読後にも思ったことですが、一出版社が(実質)主催している文学賞に権威を感じること自体がおかしなことなんでしょうし、功成り名遂げたかつての受賞作家たる選考委員も読者・書評家としては首を傾げざるを得ない老害も多いのですから、いろいろなチャンネルを通して自分が楽しめそうな本を探し、面白かったら人に勧める、信頼できる人のお勧めは手に取ってみる、それが一番、という当たり前のことを改めて頭の片隅にメモしなおす機会になりました。
資料・データや書評として読むことも当然できます。網羅的な資料としては元サイト「直木賞のすべて」に一歩譲りますが、選考の経過中にある、著者による候補作やその作者の紹介は簡潔でツボを押さえたものばかりで、ついついamazonの「ほしい物リスト」の本が増えてしまいます。
ということで、直木賞の選考結果に納得のいかない思いをしたことのある方は一読をお勧めします。
あと、著者にはぜひ「ノーベル文学賞物語」をご執筆いただきたいと思います。待ってます。続きを読む投稿日:2020.02.01
超絶氣合入つてゐるのは同作者による『芥川賞物語』と分厚さを比べてみれば一目瞭然だ
直木賞の歴史から大衆文學の歴史はあまりわからないが大衆文學の歴史を知ると直木賞の特異さ異樣さがよくわかる! そしてつま…りそこが直木賞の魅力なんだらう
ところで所々で使はれてゐる『指を屈する』の意味合ひがすこし違ふ気がする…!続きを読む投稿日:2017.10.12
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