9・11の標的をつくった男 天才と差別 建築家ミノル・ヤマサキの生涯
飯塚真紀子(著)
/講談社
作品情報
建設当時、ピラミッド以来最大の建造物といわれたビルを創ったのは、日本人の血をひく建築家ミノル・ヤマサキだった。シアトルのスラム街で育ち、差別と偏見と戦いながら、世界を相手に建築の世界でのし上がって行った日系2世。しかし、その成功の裏では、四度の結婚を繰り返す華麗な女性遍歴、仕事漬けの毎日に崩れ行く家庭、度重なる病気と非道な事務所経営――、日米の綿密な取材により忘れられた世界的な建築家の実像に迫る。
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この作品のレビュー
平均 4.2 (5件のレビュー)
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WTCビルの理想と現実
宮内悠介『ヨハネスブルクの天使たち』を読んで、WTCビルを設計したミノル・ヤマサキという建築家に興味を持ちました。彼は日系人の両親の間に生まれた二世で、数々の差別と闘いながら、建築家としてのし上がった…のです。
世界で自由な貿易が行われることを夢見て、ツインタワーの間に希望を見出していたミノル。
9.11は私にとって、どこか遠い空の向こうで起きた悲劇でしたが、今改めてあの映像を見ると、胸に迫ってくるものがあります。
いつか彼の夢見た平和が実現することを願ってやみません。続きを読む投稿日:2013.10.04
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NHK映像の世紀バタフライエフェクトで「9.11 同時多発テロへの点と線」を見た。崩れ落ちるタワー、そのタワーの建築家は日本人のミノルヤマサキ。設計者が日本人というのは知っていたが、日系2世だというの…は知らなかった。簡単な略歴も紹介されたが、1912(大正元年)12.1シアトル生まれで、「強制収容所に入る日本人を何人も見ていた」とあり自身では入っていない様子。これはどうして?と疑問が膨らみ、伝記を読んでみた。
シアトルのワシントン大学の建築科を出て、ニューヨークに職を求めたのが1934年。開戦時は33歳。収容所に入ったのは西海岸の3州の住人だけ、でニューヨークにいたので収容を免れたのだった。シアトルにいた自身の父母や妻の妹をニューヨークに呼び収容を免れさせている。
父母、また妻の父母ともに大正期の移民。建築事務所を渡り歩き、そこで経験を積んだのがちょうど戦争時期なのだ。これをみると収容された日系日本人は一旦そこで基盤をゼロにされてしまっているわけで、収容を免れたのはミノルにとって大きな幸運だったのだ。
とても精力的に仕事をし、美しい造形に出会うと「ビューティフル」というのが口癖だったという。仕事に完璧さを求めるため、胃の手術を何度もしたり、また家庭も犠牲になり、受けた仕事では全部自身のデザインを通し、それに逆らう部下は首にしたとある。が、反面、学生時代のアラスカでの鮭缶工場のアルバイトがとても過酷で、自身で事務所を構えてからの所員の給料は良く、自宅でよくパーティーをして福利厚生に気を配ったとある。
が日系というのはやはりアメリカではとても生きづらく、その偏見を跳ね返す、というのが仕事の原動力になっていたのか、という気がした。
ツインタワー(WTC)は写真や映像でしか見たことはないが、とても美しいと思う。が、できた当時あまり評判がよくなかったという。だが何年かすると市民の視覚に馴染んできた、とあった。だが最後まで建築評論家たちの賛同を得ることは無く、アメリカの大学建築科ではWTCやミノルについて触れられることは、現在でもあまりないという。それはWTCが、インターナショナル・スタイルとポストモダンという建築上の二大潮流のはざまで落ちこぼれたデザインだったからだ、という。インターナショナル・スタイルと呼ぶには新しすぎ、ポストモダンと呼ぶには古すぎたのだという。が90年代になると彫刻的なモダンキューブとして評価されたという。壁面のアップ写真があるが、細い窓枠が縦に走り、入口の地上部になるとその線の3本がゆるやかな線となりフォークの柄のように一つに合流している。美しい。
また1959年にはサウジアラビアのダーラン国際空港の設計をし、イスラムの意匠を取り入れたことで、サウジ国内でとても評判がよく、後に紙幣に印刷されている。当時の国王サワドが「サウジアラビア風を醸し出している建築は、国内ではこの空港だけだ」と言ったという。ミノルはアルハンブラ宮殿などイスラムの意匠がとても好きだったという。・・建築、あのビン・ラディンの父親はそのサウジの建築界で財を成した人だったのだ。まったく因縁である。
またミノルはアメリカで建築の賞を何度もとっている。日本でも何点か建築しているが、丹下健三からは「これ以上黴菌建築をばらまきに日本に来るな」という手紙を受け取ったという。1950年代半ばマサチューセッツ工科大学で共に夏季講義をした仲だというが、建築に対する考えが正反対だったようだ。「見て美しく、触って優しい建築を目指すヤマと、荒削りでダイナミックな建築を志向していた丹下さんとは全然アプローチがちがった」という。
1986年2月6日、肝臓がんのため死す。崩壊をみないで逝ったのは幸運だった。
できればミノルの年表と、建築物一覧とかがあればもっとよかった。
1962春 ニューヨーク港湾局の副局長から、2億8000万ドルで計画中のプロジェクトの主任建築家を務めることに興味はないか、という手紙が事務所に届く。
1962.9.1 WTCの建築家に選ばれる
1963.1.18日号の「TIME」の表紙になる
建築案に何度もの修正
1966.8.5 工事が始まる 土台は「バスタブ工法」、建造はカンガルー・クレーンで材料を構造体を上へ上へと持ち上げ建造し、最上階にくると、起重機をバラバラにして、最上階の床を作った。起重機そのものがその床材でできていた。
1973.4.4 完成式典
2010.8.26第1刷 図書館続きを読む投稿日:2022.09.17
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