中上健次
中上健次(著)
/河出書房新社
作品情報
望まれぬ子として生を享けた美しき少女フサは、十五の春に運命の地へと旅立つ――
三部作『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』の前史となる、過酷な運命を力強く奔放に生きた母の物語「鳳仙花」。
若死にの宿業を背負う中本一統の荒くれ者達を、路地唯一の産婆オリュウノオバが幻惑的に語る『千年の愉楽』より「半蔵の鳥」「ラプラタ綺譚」。
他、虚実のあわいを描いた怪奇譚『熊野集』と、神話の源である故郷を活写したルポ『紀州』より五編を収録。
作中登場人物系図他、充実の参考資料付。
【ぼくがこれを選んだ理由】
わずか一世代前、人はこんなにも奔放に生きていた。恋情も憎悪も今よりずっと強烈に作用した。今の貧血の時代に中上健次は危ないかもしれないが、だからこそ彼が読まれるべきなのだ。彼の世界への入口として、奔放な女であり強い母であるフサの物語を供する。(池澤)
参考資料・年譜=市川真人
解説=池澤夏樹
月報=東浩紀・星野智幸
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商品情報
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この作品のレビュー
平均 4.2 (9件のレビュー)
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中上健次の初体験。この全集がなければ、一生読まなかっただろうと思う。そもそも、私は私小説は嫌いだ。中上健次はその類だろうと思っていた。
読み始めてしばらくして、巻末参考資料の「作中登場人物系図」を見…た。もう一度読む。忽ちに私は何故この巻が全集「古事記」の次に配置されたかを了解した。
池澤夏樹の解説を待つまでもなく、これは太古から営々と繰り返してきた日本民族の血累の「ものがたり」そのものだったのである。
当たり前のように、6人も8人も一生のうちに子どもを産む母親たち。異母兄弟が当たり前のようにいる子どもたち。「鳳仙花」は中上健次サーガの主人公秋幸の、母親フサの半生である。しかし、この平凡ともいえる女性の両親、2人の夫と1人の男(秋幸の父親)の系図も、おそらく膨大な物語を内包しているのは、「鳳仙花」の語りを読む中で自然と伝わるものがあるのだ。喜怒哀楽、愛情、嫉妬、成長、不屈、暴力、不幸さまざまな人間の営みがそこにある。
まるでスサノオの娘とオオクニヌシが出会うかのように。まるでヤマトタケルと景行天皇との分かり合えない対立のように。
ここでも「滅びゆく者」にフサは大きな愛情を注ぐ。好きだった異父兄の吉弘の記憶は、最後までフサから離れない。吉弘の面影を持った最初の夫の勝一郎はあっけなく若死にする。やがて「千年の愉楽」において、勝一郎の一族の若死の系譜が産婆のオリュウノオバによって語られてゆく。「失われるからこそ彼らは美しい。これは運命との取引なのだ」(池澤夏樹解説)
あとで年譜を見て気づくのは、勝一郎一族と比べれば若干長命だったが、46歳という現代では十分若死といえる歳で、しかも時代と格闘しながら中上健次は腎臓ガンで亡くなっている。
中上健次を通じて、太古の人間の感情が見えてくる。とっても興味深い体験だった。
2015年6月10日読了続きを読む投稿日:2015.06.26
231104*読了
一番ボリュームのあった「鳳仙花」がとてもよかった。女性主人公の物語が好きな傾向にある。
フサという女性の15歳からの20年近くを描いた物語。古座・新宮という土地柄と時代柄、10代で…出稼ぎに行ったり女郎になったりするのが当たり前、子どもをたくさん産むことが普通、という考え・生き方が、現代を生きる自分には苦しく感じてしまった。
その時その場所に生まれ育っていたら、そもそも考え方がそう染まるのだし、当たり前にフサのように生きていくのかもしれないけれど、今の自分がもしフサであれば…と置き換えてしまうと、到底フサのようには生きていけない。
あと、当時は子どもが子どもの面倒を見るのが当たり前、幼い子どもが外に遊びに行ってもいつか帰ってくるだろうとほったらかしが普通、というのも、今に置き換えるとひやひやして仕方がない。
そんな1930年から50年代の和歌山を感じながら、夢中で読んだ。
中上健次さん自体が故郷の和歌山、それも限定された地域を舞台に秋幸と龍造の親子とその周りの人たちを描き続けていて、解説に書いてあったフォークナーの小説(前に読んだ世界文学全集「アブサロム・アブサロム!」もそう)群のように一大サーガを作り上げていると知って、他の小説にも興味が湧いている。
女主人公自体が珍しいということで、「鳳仙花」から中上健次さんに触れられたのは個人的によかったと思う。
他の収録作も舞台が和歌山であることに変わりはなく、かつ、性が当たり前にある。
性の欲望に対して力強い人たちがそこにいる。
これも中上健次さんらしさと言えるのかもしれない。続きを読む投稿日:2023.11.04
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