この作品のレビュー
平均 3.5 (45件のレビュー)
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引き続き読者の師よりお借りした本からの1冊。
本作の舞台はバンコク。バンコクは1782年、ラーマ1世による遷都以来、タイの政治・経済・教育・文化の中心として、現代では「東南アジアのハブ」と称されるほ…ど先進的な国際都市。その一方、運河を利用した交通、そして仏教文化の厳かな雰囲気の中に、古今の歴史と文化の融合、調和が感じられる。
そんな先進的な都市としての発展にもかかわらず、実際にそこで生活する一般的な人たちの生活環境はそれほど整っていないような格差イメージを持つ。それはタイ王国の政権的な問題が絡んでいるからかもしれない。
現在のタイは、ラーマ1世から続くラッタナコーシン王朝。1932年の立憲革命により、王は象徴的な存在として憲法に定められ、中央集権的な絶対王制から立憲君主制へと移行した。また、1939年にはシャム国から「タイ王国」と改称し現在に至っているが、今でもタイの政治は混乱のさなかにある。
大規模な街頭デモが繰り返され、国際空港すら群衆によって占拠されたこともあった。そして軍事クーデタが2回も起きている。2014年からは軍部による支配が続いており、2019年5月にようやく、民選内閣に変わったことは記憶に新しいが、その内閣も軍部の影響力下にある。
それ故に、私にとってはあまり画期的な先進している国というイメージがない。
前置きが長くなったが、本作は今から約40年前の80年代後半の話しで、主人公・藤倉恵子と野口謙が『仏像の背中』の出版の影で起こった事実を追いかける話し。
恵子は、王家の血を引き、内務省高官のサンスーン・イアムサマーツに見染められ、3年前からタイのサンスーンの別宅で住んでいる。ある日、サンスーンと待ち合わせていたホテルで、恵子は、野口謙、ホテルで働くボーイ・テアンと出会う。
事の発端は、恵子を隠し撮りしていたアメリカ人・ロバート・ギルビーの残したフィルムに残っていた映像である。
はじめての著者の作品だったので、これが宮本輝っぽいのか、そうでないのかもわからない。ただ、小説家の文章という正統派的な展開と文体。そして、人間の怠惰な部分、駆け引き、嘘など人間臭いところがたくさん描写されているが(いや、醜い人間臭さを感じずに物語が展開していく)、変な後味はなく、強烈な記憶も残らなかった。
ただ、本作は40年も前に書かれているのに時代遅れ的な感覚はない。これはタイの政治、経済的な情勢が変わっていないという私の思い込みもあろうが、作者の力量が大きいこともあろう。
展開は推測できるものであったが、強烈な後味もなかったので、もう少し他の作品も読んでみたくなった。
最後に、思わぬ別の知識が加わり、お得感があったことを残しておきたい。
ジェームス・ハリスン・ウィルソン・トンプソン。タイシルクで有名なジム・トンプソン氏は1906年にアメリカ東部のデラウェア州で生まれる。プリンストン大学卒業後、ペンシルバニア大学で建築を専攻し、1930年代にはニューヨークで建築家として活躍。1941年に志願してアメリカ軍に入隊。 その後、現在のアメリカ中央情報局(CIA)の前身、戦略情報局(OSS)に転属。ヨーロッパで任務につき、ドイツ降伏後にアジアに赴任する。戦後は、アメリカ大使館軍事顧問としてバンコク駐在。やがて、仲間とのホテル経営に携わったのち、タイ・シルク・カンパニーを立ち上げる。1967年3月26日にマレーシアの別荘で行方不明となる。
ジム・トンプソンのタイシルク会社立ち上げから失踪にいたるジム・トンプソン事件なるものがあることをこの作品で知った。
そして、本作のタイトルである「愉楽の園」はヒエロニームス・ボッシュの描いた「愉楽の園」とは全く関係がなかった。続きを読む投稿日:2020.09.29
水の都バンコクの運河のほとりで恋におちた男と女。めくるめく陶酔の果てに、ふたりはどこへ連れ去られていくのか。恋愛小説に新しい局面をひらいた、宮本文学円熟の成果。
投稿日:2023.11.26
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