考えるヒント2
小林秀雄(著)
/文春文庫
作品情報
「私の書くものは随筆で、文字通り筆に随うまでの事で、物を書く前に、計画的に考えてみるという事を、私は、殆どした事がない。筆を動かしてみないと、考えは浮ばぬし、進展もしない……」という著者が展開したふかい思索の過程が本書である。読者は随所に自分で考えるためのヒントを発見するだろう。第二集の目次は、忠臣蔵、学問、荻生徂徠、弁明、ヒューマニズム、還暦、哲学、歴史、常識について、などが並ぶ。
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商品情報
- シリーズ
- 考えるヒント
- 著者
- 小林秀雄
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 1985.01.01
- Reader Store発売日
- 2011.11.25
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 208ページ
- シリーズ情報
- 既刊4巻
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この作品のレビュー
平均 4.3 (4件のレビュー)
-
天という言葉と人生の意味
小林秀雄の随筆は、深い思索に裏打ちされた、水墨画の筆致のような一度限りの作品だと感じます。文章はすらすらと流れて、著者が築き上げた思想が沈む精神世界の海底から表面に浮き出てくるものを下絵なしにさらさら…と白い紙に描いているような印象を受けるのです。
さらさらと文章は流れていくのですが、書かれている内容は難しい。天という言葉が出てきます。天とは何かとは定義もしませんし、説明もしていません。天という言葉についてどういう思索をめぐらしたかという、思考の過程が垣間見られるだけです。そこに現れている文章は一閃の輝きを持っていて、読者の心を掴み、読者自身による思索へと誘います。著者の文章には定義も説明も無いのですから、読者は自分で考えるしかないのです。しかも、著者の思索は、著者の器の大きさを現すがごとく、あちらこちらへと大きく移り行きます。
我々現代に生きる者は、天というと、世界のことだとか、宇宙だとか、そんな事物的なものを考えます。しかし、古来から天はそんな浅薄なことを現すために使われてきたのではないそうです。我々はひどく無頓着な意識でもって生きていることになります。
天という言葉は、人生の意味について問う者が、人々の内的な生活に横たわっている何か言い表せない微妙な心情を表現したものであると、著者は言います。この言葉ほどに、うまく表現できた言葉が他にはないのです。それは何を表しているのか、それは定義できなくて、うまく言い表せないものなのです。だから各人が自身で考え捕まえるしかないのです。
「天という言葉が象徴的だったという意味は人生の意味を問おうとした実に沢山な人々の、微妙な言い難い心情に、この言葉は、充分に応じてくれたし、その点で、これ以上鋭敏な豊富な表現力を持った言葉は考えられないと誰もが認めていた、という事なのであり、従って、この言葉は、自覚の問題が、彼等の学問あり教養なりの中心部に生きていたことを証言していると、そういう意味だ。」
表面的に言葉を使い、言葉を便利な道具としてしか認識せず、言葉を弄していないか。言葉の意味、人生の意味を感じる鋭敏さを失い、鈍重な精神で生きてはいないか。人生の意味について自問する者は、言葉についても鋭敏な精神を持っているのでしょう。
続きを読む投稿日:2014.09.07
-
小林秀雄氏は、やはりとっつきにくい、何度も目を通すも、本書は流れがあってまだましであった。
文芸春秋に記載されたエッセイであるが、各項目は、流れをもっていて「考えるヒント」よりは、分かりやすかった。
…
気になったのは、次です。
・喧嘩という言葉は、大石内蔵助の使っている言葉で、たかが喧嘩に過ぎぬ。と彼は、「浅野内匠頭家来口上」で明言している。
・切腹という封建的処刑の方式は、今日の絞首刑より、それほど、野蛮なわけはなかった。内匠頭は首を討たれたのであって、腹をきったのではない。
・内匠頭の処分は、裁決に将軍綱吉が口をきいたが為に、喧嘩両成敗という当時の法の情k式を全く無視した異例の仕儀となった。
・赤穂浪士は感情の爆発というようなものではなく、確信された一思想の実践であった。それも、徒党の三分の二以上のものが、かつては、赤穂のような小藩にも関わらず、百石以上の知行取りであったという事は、当時の知識人教養人の選良によって行われたものといって過言ではない。
・堀部安兵衛 「武士が立たぬ」、「一分が立たぬ」という観念が、彼に取り憑いたのである。
・山鹿素行は、今日の言葉でいえば、本当に歴史というものを知りたいのなら、訓詁注釈の如き、補助概念に頼るなといったのだが、今日の歴史家は、生物学、心理学、社会学、等々の補助概念の多きに苦しんでいるのか、それとも、楽しんでいるのか。
・戦国時代が終わり、朱子学が家康の文教政策として固定してから、実は、思想上の戦国時代は始まったと言える。
・「見聞広く、事実に行わたり候を、学問と申事に候故、学問は歴史に極まり候事に候」これは、荻生徂徠の言葉である
・物を重んずるという考えは、徂徠の学問の根本にあった。「大学」の「格物致知」の格物とは、元来物来るの意であり、知を致す条件をなすものが格物であると解した。
・本居宣長が、考えるという言葉を、どう弁じたかを言っておく。「物を外から知るのではなく、物を身に感じて生きる」
・「謀」とは人の為に謀る。人に就いて謀るというように、主として、営為、処置、術を指す言葉だ。
・「思」が精しくなり、委曲を尽くせば、「慮」となり、「慮」をもって事に処せば、かならず「謀」となる
・正しい学問は、「ただ物にゆく道」なのである。
・「考へる」とは、何かをむかえる行為であり、その何かが、「物」なのだ。徂徠が「物ハ教ノ条件ナリ」というときも、同じ事をいっているのである。
・一芸に通達したものは、自ら万事に就いて、その本質的なものを掴む
・大事なのは、彼の考え方の質であり、その集中の度合いである
・学問をする喜びが感じられないところに、学問に自律的価値があるかないかというような問題は無意味になるということには、もっと気がつかない
・蕃山は、官学の官吏登用手段としての学問の傾向を看破していたし、これに実際苦しみもした。そういう彼に官学で扱われている本が死物に映っていたことに間違いはない
・蕃山は、師はいないが、志の恩を思い喜ぶということはある、といった。
・知りやすいと見えるものが、実は知りがたく、行い易いと思えるものが、実は最も行い難い。
・論語集注によれば、天命とは天理の事だ。
・孔子の思想は、古文献に徴した限り、宗教でもなければ、哲学でもない。彼には、どんな学説も発明した形跡はない。
・自然に何か意味があるように、考えざるを得ないのは、私たちが、人生には、何か意味があると考えていればこそだ。
・日常「常識」という言葉はずいぶん、でたらめに使われている。
・常識という言葉は、もともと日本語ではないのです。英語のコモン・センスという言葉を訳したものです。
・デカルトの方法とは、実際に試みなければ意味がない。この点が大事なのである。学問の方法上の開眼とは、原理的には驚くほど単純なものであった。
・私たちが常識という言葉を作った以前、これに相当するどういう言葉をつかっていたのだろう。それは、「中庸」という言葉だったろうと思う。
目次
忠臣蔵Ⅰ
忠臣蔵Ⅱ
学問
徂徠
弁名
考えるという事
ヒューマニズム
還暦
天という言葉
哲学
天命を知るとは
歴史
常識について
ISBN:9784167107024
出版社:文藝春秋
判型:文庫
ページ数:208ページ
定価:400円(本体)
発行年月日:1975年06月25日第1刷
発行年月日:2003年03月15日第21刷続きを読む投稿日:2023.07.22
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