考えるヒント
小林秀雄(著)
/文春文庫
作品情報
「常識を守ることは難かしいのである。文明が、やたらに専門家を要求しているからだ。私達常識人は、専門的知識に、おどかされ通しで、気が弱くなっている。私のように、常識の健全性を、専門家に確めてもらうというような面白くない事にもなる。(中略)生半可な知識でも、ともかく知識である事には変りはないという馬鹿な考えは捨てた方がよい。その点では、現代の知識人の多くが、どうにもならぬ科学軽信家になり下っているように思われる」(本文より)
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商品情報
- シリーズ
- 考えるヒント
- 著者
- 小林秀雄
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 1985.01.01
- Reader Store発売日
- 2011.11.25
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 224ページ
- シリーズ情報
- 既刊4巻
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この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
-
追体験して初めて「歴史」は存在する
「考えるヒント」の中の「ヒットラー」や「歴史」は、読んでいて非常に考えさせられて面白いものでした。
「ヒットラー」については、ヒットラーの人生観や思想の根本が鋭く見抜かれていて、改めて考え直しました…。それは、自分のヒットラーに対する考えが表面的なもので、世間の普通に流布している意見をそのまま受け売りしていただけで、ヒットラーに対して少しも思索をしていなかったことを小林秀雄の文章は思い知らせてくれました。
特にヒットラーが、人生は闘争である、というときに、それは議論や思想でなく事実であるということには驚きを感じました。しかも、簡単だからといって軽視できないということにも眠りから目を覚まさせられたような感じを受けました。その実に単純で軽蔑すべき思想であるにも関わらず、しかし軽視できない現実世界からの体験に裏付けられていること、それらを深く考えていないということは非情な現実から安全な書斎へと逃避してぬくぬくとしている自分がいること、それらに気がつき戸惑いを感じました。
「歴史」では、フロイトの「自伝」を読んだ話が出てきます。フロイトの研究によって、意識と無意識の関係が明るみに出たわけですが、無意識の大きな海の上に浮かぶ小さな波のような意識というイメージは、その関係が複雑であるだけに、混乱をもたらしているようだと言います。何故なら、根本にある無意識を説明するには、無意識の上に浮かぶような小さな意識によってしか理性的に説明ができないのですから。
また、フロイトによると、無意識の世界の探求には強靭な自我がないと耐えられないのだと言います。我々が抱えている心の世界は、それを覗こうとすると、他のものとも比べようもないくらいの重量で以って我々の精神にのしかかってくるからです。
最後の方に歴史的な意識という言葉が出てきます。現在に生きる我々は、歴史との間に個人としての係わり合いを断ち切って、客観的に歴史を見るようになっています。歴史上の事件を、外側か眺めて、今の自分とは切り離された単なる事実として扱っています。しかし、それでいいのかと著者は問いかけるのです。それは、我々が自分自身の精神世界で過去を振り返り、自分自身で追体験できて初めて歴史は存在するといっているのではないかと思います。我々の生活は歴史の中で脈々と続けられているのですから、それを無視していいのかというのです。
うまく表現できないのですが、確固とした自分自身が存在できて、その基盤の上で初めて歴史は存在できるのでしょう。歴史という大きな流れの中に存在する我々個人が、個性的に生きるという問題にも答えを出せずにいるのに、歴史という流れを見ることはできないです。まずは自分を見よということでしょうか。
続きを読む投稿日:2014.09.07
-
小林秀雄は、ちょっとわかりづらいというか、難しいと感じました。
何度も目をとおしたのですが、なかなか、頭にはいってこない。
書きおろしっぽくて、並びも、自由というか、話の一つ一つが、中で完結していて、…連携が薄いと感じました。
気になったことは以下です。
・常識を守ることは難しいのである。文明がやたらに専門家を要求しているからだ。私たち常識人は、専門的知識に、おどかされ通して、気が弱くなっている。私のように、常識の健全性を、専門家に確かめてもうらうというような面白くない事にもなる。
・常識がなければ、私たちは一日も生きられない。だから、みんな常識は働かせているわけだ。併し、その常識の働きが利く範囲なり世界なりが、現代ではどういう事になっているかを考えてみるのがよい。常識の働きが貴いのは、刻々に新たに、微妙に動く対象に即してまるで行動するように考えているところにある。
・政治は普通思われているように、思想の関係で成り立つものではない。力の関係で成り立つ。
・政治の地獄をつぶさに経験したプラトンは、政治への関心とは言葉への関心とは違うと繰り返しいうだろう。政治とは、巨獣を飼いならす術だ。それ以上のものではありえない。
・戦後、文段というものが崩壊して、分子という民主的職業人が、氾濫するに至った。
・嘘をつく、つかぬということは、良心の複雑な働きの中のほんの一つの働きにすぎない。嘘はつかなくても、悪いことはできる。
・現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考えることが、合理的に考えることだと思い違いしているように思われる。
・本居宣長に、「姿ハ似セガタク、意ハ似セヤスシ」という言葉がある。言葉は真似し難いが、意味は真似しやすいというのである。
・宣長は、「歌は言辞の道なり」という。歌は言葉の働きの根本の法則をおのずから明らかにしている。という意味である。
・宣長は、理より情を重んじ、人為より自然を重んじた。
・大衆が、信じられないほどの健忘症であることも忘れてはならない。プロパガンダというものは、何度も何度も繰り返されなければならない。それも、紋切型の文句で耳にたこができるほど言わねばならない。ただし、大衆の眼を、特定の敵に集中させておいての上だ。
・いまでも「平家物語」は折に触れて読むが、「源氏物語」となるとどうも億劫である。名作には違いないが、「源氏物語」のあの綿密な心理の世界には、何か私を息苦しくするものがある。
・ブルタルコスによれば、クレオパトラという女は決してパスカルが心配した意味での美人ではななかったそうである。その代わり、語学の天才で、土俗の言葉に至るまで自由に操り、非常な美声でその言葉には抗しがたい魅力があったという。
・歴史を鏡とよぶ発想は、鏡の発明とともに古いように想像される。歴史の鏡に映る見ず知らずの幾多の人間たちに、己の姿を観ずることができなければ、どうして歴史が私たちに親しかろう。
・ペリクレスの観察によれば、アテネが豊になればなるほど、人心の腐敗も豊になるということだった。
・「学問のすゝめ」の中に、「怨望の人間に害あるを論ず」という一昌があるが、福沢の鋭い分析的な観察はよく現れている。人間品性の不徳を語る言葉の種類は、実に沢山あるが、その内容をなす人心の動きに着目すれば、その強弱、方向に由って、間髪を入れず徳を語る言葉に転ずる
日本の古い舞踊は、すべて、文学的なもの、あるいは、戯曲的なものの重荷を負いすぎている。と感じている。
目次
考えるヒント
常識
プラトンの「国家」
井伏君の「貸間あり」
読者
漫画
良心
歴史
言葉
役者
ヒットラーと悪魔
平家物語
ブルターク英雄伝
福沢諭吉
四季
人形
樅の木
天の橋立
お月見
李
踊り
スランプ
さくら
批評
見物人
青年と老年
花見
ネヴァ河
ソヴェットの旅
ISBN:9784167107017
出版社:文藝春秋
判型:文庫
ページ数:224ページ
定価:429円(本体)
発行年月日:1974年06月25日第1刷
発行年月日:2001年10月20日第44刷続きを読む投稿日:2023.07.22
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